第11回 『常識と情報付与』

皆様こんにちは,同志社大学の土屋誠司です.今回は,気の利いた対話システムという観点から,常識や適切な情報付与について書いてみたいと思います.

私たち人間は,何か物事をしようとするとき,頭の中にそれらのシチュエーションや何をしたらどうなるのかといったイメージなどを自然に思い浮かべて行動していると言われています.これをメンタルモデルと呼びます.経験を多く積むとうまくメンタルモデルを作ることができますので,想定の範囲内で物事を遂行することができるようになります.

会話でも同じく,相手のことを上手く想像し,「これを言ったらこう返してくるかな」といったイメージを上手く作ることができれば,話は弾むことになります.また,自分だけではなく,話し相手も自分と同じようにメンタルモデルを作って話をしますので,双方のメンタルモデルが一致することが重要です.時として,上手く会話ができない,話が弾まないケースもあろうかと思います.それは,相手のことをあまり知らず,これまでの経験とも上手く合致しない相手ではないでしょうか.自分と相手のメンタルモデルが一致しないがために,話がギクシャクすることになってしまっているのです.

この現象は,人間相手に限ったことではありません.対話システムと話をする際にも,このメンタルモデルの一致は非常に重要になってきます.現状の対話システムでは,人間のことを慮って話をしてくれることは稀です.基本的には,知らず知らずのうちに人間側がコンピュータに忖度し,メンタルモデルを合わせに行っているケースが多いと思います.お話上手な人は,メンタルモデルを相手に合わせる能力も長けていると思われますので,コンピュータとも話が弾むかもしれないですね.今後は,コンピュータ側も人間に寄り添い,TPOを考え,相手の立場になって,合わせていく機能が必要になってくると思います.

例えば,ユーザが「一番近くのコンビニはどこですか?」とコンピュータに質問した際,あいにく近くにコンビニがないとすると,単に「ないです.」と回答するのではなく,『近くのコンビニを聞いてくるということは,きっとコンビニで手に入るようなものを買いたいのだろう』とユーザの思いや意図を汲み取り,「コンビニはないですが,スーパーならありますよ.」といった,ちょっと気の利いたことを言ってくれると嬉しいですよね.そのユーザのことをしっかり理解し,そのユーザのメンタルモデルをちゃんと構築することで,気の利いた,人と協調できるシステムの実現につながると思います.

ただ,何を返して欲しいのかには個人差があります.あまりに推測し過ぎると,今度は逆にお節介なシステムになってしまったり,あまりにユーザのことを見透かしてしまうと,気味の悪いシステムになってしまったりしてしまいます.人と付き合うというのは,本当に難しく,絶妙なバランスが必要なのだと思います.

次回は,対話システムを使う際の入出力にあたるインターフェースについて書いてみたいと思います.