第4回 『挨拶応答』 

皆様こんにちは,同志社大学の土屋誠司です.今回は,対話システムに社会性を持たせるための挨拶応答について書いてみたいと思います.

挨拶と聞くと,「こんにちは」,「おはよう」などを思い浮かべるかと思います.このような挨拶については,「こんにちは」と言われれば「こんにちは」,「おはよう」と言われれば「おはようございます」と,基本的にはオウム返しで応答すれば良いことになります.ユーザからの入力とそれに対する応答をデータベースにしておき,キーワードが入力された時には,それをデータベースから参照し,応答をするという処理になります.

ただ,例えば,「さようなら」という意味の言葉には,「バイバイ」や「じゃーね」などの同義の表現が多数存在しますので,これらの表現揺れに対応する必要があります.また,「こんにちは」でシステムを開始し,「さようなら」でシステムを終了するなど,スマートスピーカーで言う「ヘイ,Siri」や「OK,Google」などと同じ効果を持たせることもできます.

 しかし,挨拶は,このようにオウム返しで対応できるものだけではありません.例えば,「ありがとう」と言われれば「どういたしまして」,「行ってきます」には「いってらっしゃい」,「ただいま」には「お帰りなさい」というように,対になっているものもあります.これらについても,先のオウム返しと同じように,データベースを利用して応答することになります.

 また,「お元気ですか?」や「いい天気ですね」,「頑張ってください」,「お気をつけて」など,挨拶には単なるデータベースでは対応できないものも多くあります.ある程度はデータベースで対応できたとしても,いつも同じ応答になってしまいますので,ユーザはすぐに飽きてしまいます.時と場合に応じて,意味を理解し,ユーザとの関係性,対話システムのキャラクターなども考えながらバリエーションに幅を持たせる必要があります.

 挨拶と聞くと,一見,非常に簡単に処理できそうなイメージがあるかもしれませんが,このように実は奥が深いものになります.言語的な情報だけではなく,アバターやキャラクター,音声などを利用した対話システムの場合は,さらに複雑になります.アバターやキャラクターを利用する場合には,行動によっても挨拶を表現することができます.手を上げたり,頭を下げたりするなどの行為に挨拶の意味を持たせることができます.

また,声のトーンなどで意味合いを変化させることもできます.同じ「ありがとう」という言葉であったとしても,元気に発言されれば「喜んでいる」ことが分かりますし,苛立った言い方であればそれは「皮肉」かもしれません.もしかすると「皮肉」なのではなく,単に体調が悪いだけなのかもしれません.挨拶は,定型的な表現も多いですし,日常的に発する言葉でもあります.そのため,音声を利用する場合,ユーザのこれまでの挨拶と比較することで,その時のユーザの心の動きを察せられる可能性があります.同じように,対話システムの応答にも音声を利用することでこのような情報を付加することもできます.

次回は,ユーザから様々なことを聞き出す6W1H応答について書いてみたいと思います.