第5回 『6W1H応答』

皆様こんにちは,同志社大学の土屋誠司です. 今回は,ユーザから様々なことを聞き出す6W1H応答について書いてみたいと思います.

人と会話をしていると,例えば「昨日,出かけてきたんだ.」と言われると,「どこに出かけたの?」や「何をしに出かけたの?」,「誰と出かけたの?」など,相手に質問するケースは良くあります.聞き手が知りたいことを聞いたり,相手が言いたいのではないかと推察されることを聞いたり,話を展開する際に必要な情報を聞き出したりと理由は様々です.話を円滑に進めるためには,対話システムにもこのような質問をする機能は必要です.

 質問をするということに焦点を当てると,6W1Hという英語の疑問詞を思い浮かべるかと思います.いつ(When),誰(Who),どこ(Where),何(What),誰を(Whom),なぜ(Why),どうやって(How)の7種類の質問です.誰(Who)は,「誰が」の場合もありますし,「誰と」と聞きたい場合もありますので,私の研究室が作成している対話システムでは,「誰と」は「Who+」として,別途扱うようにしています.その他,「How」にも「How many」の個数や「How old」の年齢を聞くなどのバリエーションもあります.

 先の例では,1つの発話に対して,3つもの質問を考えることができました.このように,複数の質問候補が出てくることが一般的です.対話システムとしては,その複数の質問候補の中から最も適切なものから選んで応答していくことが必要になります.どうすれば適切な質問を選ぶことができるでしょうか?一つの解決方法として,人間が普段行っている発話内容の傾向を真似ることを考えることができます.

発話内容の傾向を調べるために参考になるのが用言です.先の例だと「出かけた」の「出かける」に着目し,「出かける」と一緒に使用されている名詞と助詞の組み合わせを調査します.すると,たとえば,「店に」や「お昼に」,「友達と」などの表現の組み合わせが存在することが分かります.たくさんの文章からこのような組み合わせを調べ,使用頻度の高いものを質問の話題にすると自然な質問になります.なお,名詞はいろんな表現がありますので,「店」は「場所」,「お昼」は「時間」,「友達」は「人」などと意味的な観点から抽象化してから頻度を算出します.

「出かける」の場合は「場所」+「に」の組み合わせが最も多いため,6W1H応答としては,「どこに出かけたの?」が良いことになります.もちろん「昨日,友達と百貨店に行ったんだ.」という発言だった場合は,いくら「場所」+「に」の組み合わせが最も多くても,発言内容に「場所」である「百貨店」がすでに含まれているため,質問応答としては,ふさわしくないものになります.そこで,発話に含まれる情報と重複しないように注意しながら選択する必要があります.この場合では,「何をしに行ったの?」が良いことになります.

 足りない情報を補うために質問応答は有効ですが,あまり質問応答を多用すると,ユーザを尋問しているような状況になり,ユーザはシステムから根掘り葉掘り聞かれることになり,かなり圧迫感を覚えてしまいます.この状況を打開するためには,質問応答により対話を展開するだけではなく,他の方法により対話を展開する方法も導入する必要があります.そこで,次回は,対話システムに知的な印象を与える連想応答について書いてみたいと思います.