第7回 『話題転換』

皆様こんにちには,同志社大学の土屋誠司です.今回は,対話が行き詰ったり,対話が途切れたりすることを回避するための話題転換について書いてみたいと思います.

ここまで,『質問応答』の詳細として『挨拶応答』,『6W1H応答』,『連想応答』の説明をしてきました.基本的には,対話を展開するために必要な情報をユーザから得ると共にコンピュータからも情報を提供する仕組みでした.このように,ユーザとコンピュータが情報交換をしていくと,いずれ得られる情報も提供する情報も枯渇してきてしまいます.このような時には,新しい情報を得たり提供したりできる話題に変えるしか,対話を続けることはできなくなってきます.それでも無理やり対話を進めると,ユーザに飽きられてしまい,対話システム自体が使用されなくなってしまうという最悪の状況を生み出すことにも繋がってしまいます.

ここで活用するのが『話題転換』という機能です.これまでの対話とは異なる話題に切り替えることで,新しい対話を始めることができます.話題を転換するにあたっては,何の話に話題を変えても良いというものでもありません.そもそも,話題を転換する必要が生じるのは,先に説明したようにユーザから得られる情報もコンピュータから提供する情報もなくなった時になります.そのため,ユーザから情報が得られる話題,もしくは,コンピュータから情報を提供できる話題のどちらかを選択する必要があります.

コンピュータから情報を提供できるという観点からは,Web上の情報などがふんだんに利用できるため,かなり広範囲の話題を扱うことができます.ただし,その提供した情報をユーザが好むか否かを判断して,話題を選択する必要があります.そうしなければ,話が盛り上がらず,話題転換の効果を得ることができません.そこで,ユーザとの対話履歴を利用し,ユーザの嗜好を推定することで,ユーザの好みにあった話題を選択するのが得策だと言えます.

この対話履歴を使用する方法は,ユーザから情報を得られる話題という視点からも利用することができます.対話履歴に含まれる単語に関連した話題であれば,興味を示す可能性が高いと判断することができます.

履歴を利用する際には,ユーザの発話内容も重要ですが,それと同じぐらいコンピュータの発話内容もまた重要です.対話は発話の掛け合いですので,どんな発話に対して何を発話したのかは重要な情報なのです.

ただ,すべての対話履歴が重要かと言われるとそういう訳ではなく,単に永遠にすべての対話の履歴を保存して利用しようというのは危険です.技術的には,すべての対話履歴を保存し,適宜参照して発話に利用することは,現在では十分可能です.しかし対話履歴には,時間の経過,情報の鮮度というものがありますので,あまり古い発話内容に対して,今現在,ユーザが興味を示すかどうかは別問題かと思います.そのため,費用対効果も考慮すると,うまい具合に忘れるという機能を設ける必要があろうかと思います.ただ,いくら時間が経っているからと言って単純に削除することもまた危険です.時間がいくら経過していても,絶対に忘れてはいけない物事もあります.

このさじ加減が絶秒な人が,いわゆるお話上手な方の一つの特徴かと思います.重要なものはしっかり覚えておき,そうではないものは適宜忘れていく.これを上手くコンピュータで実現するのは,非常に難しく,履歴を利用したシステム全般に言えることでもあります.

今回は,話題転換として,ユーザから情報が得られる,もしくは,コンピュータから情報を提供できる話題を選択する必要があることを説明しました.次回はこのうち,コンピュータから情報を提供できる話題について,もう少し深堀してみたいと思います.