第6回 『連想応答』

皆様こんにちは,同志社大学の土屋誠司です. 今回は,対話システムに知的な印象を与える連想応答について書いてみたいと思います.

前回の『6W1H応答』では,足りない情報を補うために疑問詞に基づき質問をする方法について説明しました.しかし,あまりユーザに質問をし過ぎると尋問しているような状況になり,ユーザは圧迫感を覚えてしまいます.そこで,ユーザにも積極的に対話を展開してもらうには,コンピュータ側からも情報を提供する必要があります.いわゆる,対話を盛り上げる仕掛けが必要になります.

例えば,ユーザが「動物園に行ってきたんだ」と言った場合,「誰と行ってきたのですか」などと淡々と6W1H応答をし,ユーザから情報を引き出すだけではなく,「ペンギンはかわいいですよね」などとコンピュータ側からも情報を提供することが考えられます.これにより,コンピュータが提示した「ペンギン」や「かわいい」といった言葉を手掛かりにして,対話が展開されていくことが期待できます.

このようなことを実現するためには,言葉からさまざまなことを連想する必要があります.先の例の場合では,例えば「動物園」という言葉からは,「ペンギン」,「ライオン」,「キリン」などの動物や「飼育」,「ステージ」,「展示」などのそこで行われる行為といった物事を連想することができます.さらに,その連想した言葉である「ペンギン」からは「かわいい」や「鳥類」,「飛べない」などと言ったことも連想できます.連想することができれば,ユーザが直接発していないさまざまな物事を紡ぎ出すことができます.

このような行為は,人間であれば特に意識することなく日ごろから皆がしていることかと思います.ただ,コンピュータでは,完全に一致するものを見つけることは容易にできますが,関連するものを抽出することは非常に難しいことになります.そもそも「関連する」とは,どの程度の関係のことなのか,何をもって関係があるというのかを判断する必要があり,実は非常に難しいことなのです.人間であれば,いわゆる「適当」に線引きをすることになるのですが,そのようなあいまいな判断は,コンピュータは非常に不得意です.

それはコンピュータには常識がないからです.常識がないことは,昨今の人工知能でも問題になっています.たとえ連想することが実現できたとしても,今度はずーっと連想を続けてしまうことになってしまいます.例えば「動物園」→「ペンギン」→「かわいい」→「子供」→「出産」→「お祝い」→・・・といった連想をしてしまい,ユーザの「動物園に行ってきたんだ」という発言に対して「出産おめでとうございます」などと,とんちんかんな応答をコンピュータがすることになってしまいます.常識的にうまく曖昧に判断し,割愛したり端折ったりすることが今後の人工知能では必要ですし,対話システムにも必要になります.まだまだうまく実現できていない機能になりますので,今後の発展が期待されています.

ちなみに,私の研究室では,言葉の連想を実現するデータベースである「概念ベース」とそれ基づく「関連度計算手法」を開発し,それらを利用して常識的に物事を判断できる「場所判断システム」や「感覚・知覚判断システム」などを開発し,対話システムに応用しています(自然言語処理の第8回「単語の意味」や人工知能の第18回「人工知能の技術的な問題点」,第21回「人工知能で取り組むべき課題」なども併せて参照してみてください).

次回は,対話が行き詰ったり,対話が途切れたりすることを回避するための話題転換について書いてみたいと思います.