第25回 『ファジィ』
皆様こんにちは,同志社大学の土屋誠司です.人工知能の第25回目の今回は,ファジィについて書いてみたいと思います.
『ファジィ』もエキスパートシステムと同じ第二次人工知能ブームの時に脚光を浴びた技術です.ちょうど日本ではバブルの時期とも重なり,「ファジィ機能搭載!!」と銘打って,いわゆる人工知能を搭載した高級な家電などが数多く販売されました.今,あらゆる家電などに「AI搭載!!」と言われる状況と本当に同じような現象でした.
ファジィは,「0」,「1」だけではなく,より柔軟にあいまいな判断ができることが特徴です.例えば,掃除機の強弱を自動的に調整するファジィの機能を作ることを考えます.ごみの量をセンサーで把握し,それに合わせて強弱を設定します.これまでの技術であれば,弱か強かの二択だけでしたが,ファジィでは,下の図のように弱はこれぐらい,強はこれぐらいというように,まずは別々に設定します.そして,それらを重ね合わせることで,弱から強への切り替えを滑らかに制御することができます.
ファジィは,特に『ファジィネス』と呼ばれる,概念の境界が不明瞭な問題を解くことができる技術です.実は,「あいまい」という概念には,2種類の側面があります.1つは,ファジィで扱っている境界が不明瞭であるという『ファジィネス』,もう1つは,ある事象が不規則に発生するという『ランダムネス』です.最近ブームの統計処理をベースとした人工知能では,後者の『ランダムネス』をターゲットにした技術になります.
そもそもファジィネスとランダムネスとは異なる現象であり,異なるあいまいさを扱っています.そのため,いつか必ず限界がやってくると私は考えています.過去の歴史を見ていると,またファジィネスを扱う技術が,しかも少し進歩して,次の時代にはブームになるかもしれません.
ファジィは,エキスパートシステムと同じく,専門家の知識,判断をすべて記録,登録し,それを利用することであいまいな判断を実現しています.しかし,その知識ベースの構築作業やメンテナンス作業は非常に大変です.もちろん,その分野の専門家の力を必ず借りなければできない作業になりますので,新入社員には到底代わりは務まりません.そのため,『匠の技』を次の世代に引き継いでいく必要が出てきます.ただ,それには多くのコストがかかります.ちょうどバブルも崩壊し,集中と選択をしながら,効率を最優先にせざるを得ない環境では,どう考えても不都合です.そのようなこともあり,1990年代後半には第二次人工知能ブームも終焉を迎えることとなりました.
次回は,時代を少し戻し,第一次人工知能ブームのころの技術である推論について書いてみたいと思います.