第18回 『意図を知る』

皆様こんにちは,同志社大学の土屋誠司です.自然言語処理の第18回目の今回は,意図を知ることについて書いてみたいと思います.

書き手,発話者は,伝えたい物事を言葉によって表現します.そして,読み手,聞き手は,発せられた言葉から情報を読み取ると共にそれを発した人物が抱いている感情や意図を読み解きます.その行為を交互に繰り返すことでコミュニケーションが生まれます.このように見ると,書き手,発話者は,意識的もしくは無意識のうちに,その使用した言葉に自分の抱いている感情や意図を盛り込んでいるということになります.

意図とは,書き手の判断として,証拠,確信,推論,仮説などを,書き手の態度として,判断,意思,指示,保証,要請などを表現することになります.例えば,「夏休みが終わり学校が始まった」という表現の場合,「新学期が始まった」という単なる事実の情報のみを表現しています.一方「夏休みが終わり学校が始まってしまった」という表現になると「夏休みが終わって悲しい」,「学校が始まって嫌だ」という「新学期が始まった」という単なる事実の情報だけではなく,書き手の意図,この場合,意思が表現されています.このように,意図を表現するために,文末に「しまった」を付けるだけで意味合いがずいぶん異なります.この文末につけた「しまった」のような表現を『モダリティ』と言います.日本語の場合は,よく文末に現れます.

また,この『モダリティ』は文末だけではなく,単語自体に現れることもあります.例えば,二人称の代名詞として「あなた」がありますが,同じ二人称の代名詞として他に,「君」,「お前」,「貴様」,「己」などがあります.発音の仕方にもよりますが,字面だけでも,相手を見下したり,相手に対する悪意が込められていたりしているように感じるかと思います.相手のことを表現するという意味では同義語という位置づけにはなりますが,意味合いは決して同じではありません.選択を間違えるととんでもないことになってしまいます.

このような例は極端ではありますが,言葉で表現する場合,無数の表現方法が可能であり,これといって絶対にこれだけが正解というものがあるわけでもありません.そのため,私は学生時代,国語のテストは大嫌いでしたが...しかし,好ましい,好ましくないという判断はしっかりとしなければなりません.時と場合によって,情報を受け取る相手によって適切な言葉を選択していかなければなりません.その選択する言葉によって,その人の性格や品性,知性が現れることになってしまいます.日々精進して,もっともっとスマートに言葉を選んで表現できるようになりたいものです...

次回は,もう一つの感情に焦点を当て,言葉からの感情推定について書いてみたいと思います.