第19回 『言葉からの感情推定』

 皆様こんにちは,同志社大学の土屋誠司です.前回の第18回の自然言語処理では意図について書きましたが,自然言語処理の第19回目の今回は発話に含まれるもう一つの情報である感情を言葉から推定する方法について書いてみたいと思います.

私の専門分野は人工知能,特に自然言語処理ですが,その中でも,研究を始めてからずっと研究対象にしているのが感情です.研究成果として,「口語表現に対応した知識ベースと連想メカニズムによる感情判断手法」(土屋誠司,鈴木基之,芋野美紗子,吉村枝里子,渡部広一,人工知能学会論文誌,Vol.29,No.1,pp.11-20,2014)や「連想メカニズムを用いた話者の感情判断手法の提案」(土屋誠司,吉村枝里子,渡部広一,河岡司,自然言語処理,Vol.14,No.3,pp.219-238,2007)として発表いたしました.

スマートフォンの普及と共に,現在,音声による入力が再びブームになっています.iPhone のSiriやスマートスピーカーなどにより,新しい検索方法の形が提案され,受け入れられつつあります.今後,ますます技術が進歩し,誰もが自由に高度なコンピュータを利用できることが望まれています.その解決策のひとつとして,人間同士が行うコミュニケーションの手段をコンピュータを利用するための手段として採用することが考えられます.特に,よりコンピュータが発展し,人と共存できる,人と共に暮らすロボットなどが開発された時,ロボットが人を理解する,人の感情を判断でき共感できる能力は,非常に重要な要素になると考えられます.そこでこれらの論文では,人の発話内容から相手の感情を読み取ることに焦点をあて,人の発話内容を解析することで発話者の感情を判断する手法を提案しています.

感情を判断する際には,目的語を203分類(または34種類),用言を2種類(または59種類)に分類し,その組み合わせ計406種類(または能動態か受動態かの判断(2種類)と否定形か否かの判断(2種類)を組み合わせた計8024種類)に対して感情を定義し,その知識ベース(データベース)に基づいて感情を判断します.なお,目的語や用言の分類処理においては,単語の関連性から多義性の判断なども行っています.これらの処理や感情を判断する基となる少数の知識が登録されている知識ベースを有効活用するために,自然言語処理の第8回目の単語の意味で紹介した『概念ベース』などを用いて,少数の知識を自動的に拡張解釈することであらゆる表現に対応できるようにしています.

例えば,「私は綺麗に口紅を引いた」という文の場合,主語は「私」,修飾語は「綺麗な」,目的語は「口紅」,用言は「引く」となります.この場合,「綺麗な」と「口紅」から「美しい」という意味に分類されます.また,『概念ベース』や知識ベースなどを用いることで用言の多義性の判断を行います.この場合「引く」は「塗り延べる」という意味であり「継承」される意味合いに分類されます.これらの2つの分類結果「美しい」と「継承」の組み合わせから知識ベースを参照することでこの発話者は「喜び」を感じていると推定することができます.この提案手法では,人の感情判断能力の74.2%にまで近づくことができたという結果がでています.

次回は,自然言語処理を応用した,なくてはならない技術として,かな漢字変換について書いてみたいと思います.