第26回 『技術とその名前』

皆様こんにちは,同志社大学の土屋誠司です.自然言語処理の第26回目の今回は,技術とその名前について書いてみたいと思います.

技術は日々進歩し,新しいものがどんどん生み出されていきます.お偉い方々が提案された素晴らしい技術には,もちろん名前が付けられることになります.特に情報系の技術には,結構想像力豊かな,とんちの効いた,面白い名前のものが少なくありません.

例えば,『木構造(ツリー構造)』と呼ばれるデータの整理方法があります.これは,イメージとしては,トーナメント表のようなものです.トーナメント表では,1対1の組み合わせを繋ぎ合わせて構成されますが,この『木構造(ツリー構造)』では,複数の組み合わせを繋ぎ合わせていくイメージになります.「生物」には「動物」や「植物」などがあり,「動物」には「人間」や「犬」,「猫」などが,「犬」には「チワワ」や「ポメラニアン」,「柴犬」などが分類されます.このように構成することで,上から下に行くにしたがって,物事がより詳細になっていくように整理することができます.この『木構造(ツリー構造)』という呼び方は,その名の通り「木」に由来しています.実際には,上から下に向かって広がっていきますが,上下逆さまにすると,根から幹や枝が生え,先端には葉が茂っている木によく似ているところからネーミングされています.

また,最近よく聞くことがある『Cloud』という技術ですが,英語では「雲」という意味の単語です.情報系の技術で言う『Cloud』は,複数のサーバーというコンピュータを利用し,情報を分散管理する仕組みのことになります.複数のサーバーで分散管理することで,障害が起きた時に,データが消えたり,システムが動かなくなったりすることを回避することができます.複数のサーバーで一気に処理しますので,スピードが速いという特徴もあります.この仕組みのどこが「雲」なのか.実は,コンピュータシステムのイメージ図を描く際に古くから雲の図でネットワークを表現することが多く、それが語源となっているといわれています.「雲」は,微細な水の粒が集まったものですので,複数のサーバーを利用していることとイメージが重なります.また,『Cloud』上にある情報は,インタネットを利用しながらいつでもどこでも利用することができますので,天から情報が降ってくるようなイメージから「雲」を想像したのかもしれません.

最先端技術を開発する人というと,何となく堅苦しい,気難しい人を想像してしまいますが,素晴らしいことを発想できるお偉い方々は,意外にチャーミングな人が多いような気がします.そのため,付けられる名前にもそのチャーミングさが反映されているような気がします.きっちりとした理論に基づき,難しいことを考えるという固い部分とうまくバランスを取られているのかもしれませんね.一度そういう視点から技術に触れてみても面白いと思います.

次回は,自分の言葉を見つめなおすことについて書いてみたいと思います.