第24回 『エキスパートシステム』
皆様こんにちは,同志社大学の土屋誠司です.人工知能の第24回目の今回は,エキスパートシステムについて書いてみたいと思います.
人工知能の第6回「人工知能の歴史-第二次人工知能ブーム-」のところで触れましたが,1970年~80年代に,専門家の考え,専門知識をデータベースとして記憶させる『知識ベース』という技術が導入されました.知識ベースは,その分野の専門家が作成するため,正しい知識しか登録されていないという特徴があります.
例えば,「○○だったら××をして,そうじゃなかったら△△をする.」というように,知っておいて欲しいことを整理して登録しています.このような形で表現した知識のことを『If-Thenルール』,『プロダクションルール』と呼びます.『If』は「もし」,『Then』は「そうだったら」,『Else』は「そうじゃなかったら」という意味で,先の例だと「If ○○ Then ××Else △△」というようになります.
ある分野の専門家やプロと聞くと,ものすごく偉い人を思い浮かべるかもしれませんが,実はそうとも限りません.実は老若男女,みんな立派な専門家,プロです.「えっ,何のプロ?」と思ったかもしれませんね.例えば,料理を作れる人は「料理を作れる」プロです.小さい子供は「子供」というプロなのです.お父さんやお母さんはもう子供ではありませんから「子供のプロ」ではありません.子供でなければ,子供の目線からでないとわからないこと,気づかないことは,実はたくさんあるかと思います.こう考えると,ありとあらゆる物事を知識としてとらえることができるかと思います.
この『If-Thenルール』をたくさん登録することで,専門家である人間が実際に使っている知識や実際に行っている判断をそのままコンピュータにさせることができます.この手法のことを『エキスパートシステム』と呼びます.この手法は理想通りに活躍し,実際,飛行機の自動運転などに利用され,非常に大きな成果を残すこととなりました.現在の飛行機では,離陸,着陸時を除き,ほとんどが自動運転になっており,飛行機が事故を起こした際にはほとんどが自動から手動に切り替えられたときであると言われるほどにまでなっています.
しかし,このエキスパートシステムも万能ではありません.メリットがあれば,やはりデメリットもあります.最も大きなデメリットは,知識ベースのメンテナンスです.ある分野の専門家にお願いして,知識ベースを構築しますが,より良いものにバージョンアップしようとした時,新しい機能を追加しようとした時,再度,専門家に知識ベースを作成してくれるようにお願いする必要が出てきます.その都度,時間もコストもかかりますし,このような作業に快く付き合ってくれる専門家も少ないという問題もあります.そのため,現在では,知識を自動で学習させようという方向として第三次人工知能ブームになっています.
次回は,同じく第二次人工知能ブームの時に脚光を浴びた『ファジィ』について書いてみたいと思います.