多すぎると困る迷惑たんぱく質:認知症と睡眠

札幌市立大学名誉教授
スーディ K. 和代

2020 年、明けましておめでとうございます。

昨年、アルツハイマー病型の認知症にはベータアミロイドというたんぱく質の一種が脳 内に蓄積して問題症状の原因になっているという話を書きました。 そして、質の良い睡眠 とベータアミロイドとの関係をご説明した上で、認知症とのかかわり(予防とは言い切れな いが発症遅延に関係していると考えられている)で睡眠時間と質は重要であるという話もし ておりました。

実は、ベータアミロイドの他にタウというもう一つのたんぱく質もアルツハイマー病に 関係しているのです。 これらのたんぱく質は私たちの活動に比例して脳内に増加して、や がて、睡眠中に除去されるのです。 つまり、私たちの睡眠中の脳内にクリーニング隊が動 員されて、脳内をすっきりさせて翌日の活動に備えるわけです。タウは異常に蓄積すると脳 内の神経細胞に付着してもつれの原因となり、そのもつれが脳細胞の機能を低下させて認知 症状の発生につながっているからです。だから睡眠の時間も質も大切なのです。

このタウと睡眠についての面白い研究結果が発表されたので、共有したいと思います。 次のような研究結果がスゥエーデンの科学者から 1 月の専門誌に発表されました。[この研 究は未だ初期段階だが]と前置きをした上で、以下のような内容が語られています。

通常は 7~9 時間/日の睡眠時間をきちんと確保している平均年齢 22 歳の男性 15 名を対 象に行った研究結果ですが,わずか一晩でも睡眠不足になるとタウが 17%も増加するとい う結果が出たのです。複数の原因が推測されるが、ひとつは睡眠時間と質が不十分であると クリーニング(清掃)隊が掃除をする暇がないから、と述べています。この研究結果の特記 すべき点は、睡眠不足が一晩でもあると、タウの異常蓄積が認められるという点です。

いづれにしても睡眠が認知症発生に関わっていることは多くの先行研究で示されていま すので、睡眠時間と質の担保は大切です。

良い睡眠を得るヒント:1 就寝・起床のサイクルを一定にする(筆者は昼夜が逆になる 海外でも現地時間に合わせて可能な限りサイクルを一定に維持している)、2 暗くて静か、 かつ、適切な室温(熱くならないように)の睡眠環境を維持する、3昼寝をするにしても長時 間寝ない(30 分以内)、4 昼間、適度な運動をする、5 不安材料を除去する(個人的な 見解ですが、問題や不安なことは昼間に考えた方が客観的に解決できそう! 暗い夜は不 安や問題が不必要に増大する気がします)。

十分な睡眠をとって、脳内のタウ・クリーニング隊に時間を与えましょう。