第3回 『なごみちゃん誕生秘話(デザインプロセス)【前半】』

皆様、こんにちは。札幌市立大学 デザイン学部の柿山浩一郎です。第1回の内容でも触れさせて頂きましたが、株式会社なごみテクノロジーさんの「なごみちゃん」キャラクターデザインを担当させて頂きました。第3回のテーマは「なごみちゃん」の誕生秘話(デザインの流れ)の前半【モチーフ検討】に関してのお話です。

 なお、前回(第2回)当研究室でキャラクターデザインを行うStepをお話させて頂きました。その内容に従って説明していきます。

 まず、株式会社なごみテクノロジーさんから、キャラクターデザインのご相談を頂きました。概要としては、

  • 音声対話を活用した健康エージェントシステムの研究開発を行っている。
  • ご高齢で独居の方がスマートフォン内の健康エージェントと会話するもので、会話を通じた健康状態の推定、運動や食事のアドバイス、等のサービス提供を目指すシステムである。
  • スマートフォン内に表示される健康エージェントのキャラクターであり、簡単なアニメーションで、利用者へフィードバック(音声に反映しにくい感情)を視覚的に行うことが目的である。
  • 企業ロゴマークがあるので、そのテイストをベースに考えたい。

とのことでした。

 以上からまず考えられたのは、前回説明済の《Step2》. 「キャラクターデザイン」を行う【利用シーン】は?が決定済であるということでした。具体的には、「ICT機器のディスプレイ上でアニメーションとして成立すればよい」ということですので、「制作時の制限が無いに等しい」ということでのスタートとなりました。

 具体的なデザインプロセスの説明にまいりましょう。最初に、前回説明済の《Step1》. 「キャラクターデザイン」を行う【目的】は?に関する検討を行いました。Step1では、【ターゲットユーザ】【モチーフ】【メッセージ】を明確にすることが重要でしたね。【ターゲットユーザ】は明快で、利用者と想定するご高齢で独居の方となります。【モチーフ】【メッセージ】に関しては、企業ロゴマークがモチーフのベースとなり、【モチーフ】が検討の対象、【メッセージ】に関しては、利用者がどんな印象でこのキャラクターを捉えるか、ということになります。

 以上の条件で、当研究室にて、企業のロゴマークをベースにアイデア展開をしてみました。図1はその一部ですが、ロゴマークを「擬人化」したり、音声が合成音声であることが予想されたので「ロボット的」にしたり、高齢者が会話をゆったりと楽しむものであることから「カメ?的」にするなどの、自由な発想を行いました。

図1. 企業ロゴマークからの発想

 こういった自由な発想でのキャラクター検討の流れを、株式会社なごみテクノロジーさんに提示させて頂き、ディスカッションを行いました。

ディスカッションの内容としては、

  • 企業のロゴマークの制約を無くして検討してみる。
  • 健康エージェントなので、医療関係を連想させる【メッセージ】にすべき?
  • 利用する合成音声が20代女性となることを考慮する。
  • 感情伝達を行う必要があるので、表情を認識しやすいモチーフとする。
  • どういったアニメーション(ジェスチャー)をさせるのかも検討する必要がある。

といった内容でした。

 以上の条件で、さらに当研究室にて、アイデア発想を行いました。図2はその一部ですが、表情が認識しやすいこと、何らかのジェスチャーが可能となること、などの条件を大切にして、【A】ICT機器を用いたサービスであることから「スマートフォン的」に、【B】【D】医療関係を連想させる「問診用クリップボード的」「赤十字的」に、【C】身近な「近所の優しい娘さん的」に、などのモチーフ検討を行いました。

図2. 企業ロゴマークの制約を撤廃した発想

 これらの検討の流れを、再び株式会社なごみテクノロジーさんに提示させて頂き、ディスカッションを行いました。結論としては、「まずは、ターゲットユーザとなるご高齢で独居の方に、親しみをもって使って貰いたい」とのことから、【C】近所の優しい娘さん、をモチーフとすることに決定しました。

 次のステップは、前回説明済の《Step3》. 最も効果的な【表現手法】は?となります。3DCGで立体化する、手書き風に仕上げる、など表現に関する選択肢は多くありましたが、親しみやすさの観点から、癖のない平面的な表現(第2回の図2で言えば軸の中央)とする方針で検討を進めました。図3は、娘さんの3案と、色彩設計の検討を行ったものです。

図3. 「親しみやすさ」からの「近所のやさしいお姉さん案」の検討

 これらの検討結果を、株式会社なごみテクノロジーさんに提示させて頂き、ご検討頂きました。ディスカッションの結果、【企業ロゴカラー】の【Y】が、「アンドロイド(人間に似たロボット)的で、今回のAIを駆使した健康エージェントにふさわしい」ということになりました。  以上が、「なごみちゃん」のデザインプロセスでしたが、いかがでしたでしょうか。次回は、今回の「なごみちゃん」をどう動かすのか?つまりどのような表情の変化やジェスチャーで、利用者に伝達する感情表現パターンの検討プロセスをご紹介します。今後も、本ページにご訪問頂ければ幸いです