第2回 『キャラクターデザイン』

皆様、こんにちは。札幌市立大学 デザイン学部の柿山浩一郎です。第1回の内容でも触れさせて頂きましたが、株式会社なごみテクノロジーさんの「なごみちゃん」キャラクターデザインを担当させて頂きました。「なごみちゃん(図1)」の誕生秘話に関しては、第3回を楽しみにして頂ければと思いますが、第2回のテーマは「なごみちゃん」のキャラクターデザインの依頼を受けた際に頭の中あった『キャラクターデザイン』そのものに関してのお話です。

図1. なごみちゃん

まず、皆様は「キャラクターデザイン」というと、何をイメージされるでしょうか。「マリオ」のようなゲームのキャラクターでしょうか。「ペコちゃん」のような企業や商品を象徴した(場合によっては擬人化した)キャラクターでしょうか。または、「くまモン」のような自治体が掲げるゆるキャラでしょうか。

 私の実家が熊本にある、という安易な理由で、ゆるキャラとして有名な「くまモン」を事例に説明していこうと思いますが、当研究室では以下のプロセスでキャラクターデザインを行うことを基本としています(プロジェクトの性質により、本プロセスの順番を入れ替えたり細分化を行ったりしています)。

 《Step1》. 「キャラクターデザイン」を行う【目的】は?

 《Step2》. この「キャラクター」を活用する【利用シーン】は?

 《Step3》. 最も効果的な【表現手法】は?

 順に解説していきましょう。

《Step1》. 「キャラクターデザイン」を行う【目的】は?

 事例の「くまモン」ですが、くまモンオフィシャルホームページ(くまモン自己紹介)(注1)によると、「・・・ボクの仕事は、身近にあるサプライズ&ハッピーを見つけて、全国のみんなに知ってもらうこと。熊本だけでなく関西や関東にも出張して、熊本のおいしいものや大自然を熱烈アピール中!(中略)ボクが大好きな熊本のことを、みんなにもっともっと知ってほしい・・・」とされています。この自己紹介を読み解きますと、「熊本のことをみんなに知ってほしい」、堅苦しく書けば「日本国内における熊本の認知度を向上する」といった【目的】であると解釈できます。

 実は、この【目的】を明確にすることは、【ターゲットユーザ】【モチーフ】【メッセージ】を明確にすることに同義となります。【ターゲットユーザ】としては日本人でしょうか。「日本語が理解できる人を対象とする」といった程度の制限しか無いと言えます。【モチーフ】に関しては、熊は熊でも、北海道に生息するヒグマをモチーフにしては熊本を表現したとはいえません。九州に生息しているツキノワグマが適切なモチーフと言えますでしょうか。【メッセージ】に関しては、例えば熊本を想起させる名称で考えますと、「くまもと」の「くま」を、名称である「くまモン」の「くま」と重ねることで、熊本を想起させる名称になる、といったわけです。

 デザインは、無限の既存要素(選択肢)の中から適切な組み合わせを導き出す行為となります。この【目的】の明確化を行うことで【ターゲットユーザ】【モチーフ】【メッセージ】の適切性が評価可能となります(良いデザインなのか悪いデザインなのかの判断がしやすくなります)。

《Step2》. 「キャラクターデザイン」を行う【利用シーン】は?

 事例の「くまモン」ですが、「熊本の特産品などのパッケージや包装紙に印刷される」という【利用シーン】があります。これを作り手的観点から解釈すると、「紙媒体で活用する」と解釈でき「印刷可能な画像として成立すればよい」ということになります。

 ここから見えてくることはなんでしょうか。この【利用シーン】を明確にすることは、キャラクターデザインをする際の制限を明確にすることに同義となります。つまり、画像として成立すれば良いということであれば、制作時の制限が無いに等しいといえます。

 それでは、「着ぐるみ化し中に人が入ってイベントを盛り上げる」という【利用シーン】ではどうでしょうか。この場合、中に人間が入って動作をする為、手足といった可動域を前提とする必要がありますし、「なごみちゃん」のような頭と手が離れている表現が成立しないことになります。つまり【利用シーン】を「着ぐるみをイベントで活用する」と考えるのであれば、ある一定の制限が存在するということになります。

 デザインは、無限の既存要素(選択肢)の中から適切な組み合わせを導き出す行為となります。制限の明確化を行うことで、デザインワークがスムーズになります。

《Step3》. 最も効果的な【表現手法】は?

 以上のプロセスを通して「ツキノワグマ」をモチーフに、「着ぐるみも想定」したキャラクターデザインを描くステップとなります。ここでは、最も効果的な【表現手法】の選択が重要となります。繰り返しになりますが、デザインは、無限の既存要素(選択肢)の中から適切な組み合わせを導き出す行為であり、【表現手法】にも無限の選択肢があります。図2のように、選択した【表現手法】により、ニュアンスの異なるメッセージの伝達が行われることになり、目的に合わせて適切に表現手法を選択することになります。

図2. 表現手法によるメッセージの強化

いかがでしたでしょうか。次回は、今回の「キャラクターデザイン」に関する考え方を前提として行った、「なごみちゃん」の誕生秘話(デザインプロセス)をご紹介します。今後も、本ページにご訪問頂ければ幸いです。

注1. くまモンオフィシャルホームページ(くまモン自己紹介)
   https://kumamon-official.jp/kiji0031657/(閲覧日:2019年7月18日)