第13回 『人工知能は人間を超えるか』
皆様こんにちは,同志社大学の土屋誠司です.人工知能の第13回目の今回は,人工知能は人間を超えるかをテーマに書いてみたいと思います.
人工知能の研究をしているとよく質問されることの一つに,「人工知能は人間を超えますか?」というものがあります.この質問の裏には,「人類は人工知能に支配されるのでしょうか?」というニュアンスが隠れており,不安を感じておられることが分かります.
人工知能の第3回の「人工知能と産業革命」でも書かせていただきましたが,2020年には第4次産業革命が起こると言われています.また,人工知能の第8回の「人工知能と社会革命」では,「『情報革命』のその先も人類は見つけていくのだと思います.」と書きました.実際,日本が提唱する未来社会のコンセプトとして,内閣府から科学技術基本法に基づき5年ごとに改定される第5期(2016年~2020年)の科学技術政策として『Society 5.0』,つまり,『情報革命』の次の革命について提言されています.そこでは,「仮想空間と現実空間を様々な技術で高度に融合させることで,経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会を実現する」ことが提案されています.技術的なトピックスとしては,『IoT(Internet of Things)』,『人工知能(AI)』,『ロボットや自動走行車』の3つが挙げられています.
このように,どんどんコンピュータや人工知能の重要性は増していくと思われます.しかし,「人工知能は怖い」,「人工知能が仕事を奪う」という議論は間違っているように感じます.上の政府の見解でも「人間中心の社会」とされているように,まさにこの部分が重要なのだと思います.結局,コンピュータも人工知能も我々人間の道具であるということです.では,「人工知能は全く怖くない」,「人間を超えることはない」という話なのかと言われると,それはまた別の話だと思います.2015年の段階ですでに人工知能のパフォーマンスは猫の頭脳を超えたと言われています.近い将来,人間の頭脳を超えるのも想像に難くありません.つまり,すべては我々人間次第だということだと思います.コンピュータや人工知能はあくまでも人類にとっての便利な道具であるということを逸脱しないように活用する必要があるのだと思います.
政府が提唱している『Society 5.0』のような革命の後としては,2030年頃に人工知能のパフォーマンスが人ひとりの頭脳を超え,さらに2045年頃には,人工知能のパフォーマンスが全人類の頭脳を超えると言われています.この全人類の頭脳を超えることを『シンギュラリティ(技術的特異点)』と呼びます.全人類の頭脳を超えてしまうので,人間には人工知能を制御することができなくなり,人類は人工知能に支配される...というように議論されることがあります.しかし,落ち着いて考えてみてください.人間はレーシングカーより早く走れますか?人間はコンピュータより早く正確に計算することができますか?すべての人がコンピュータ将棋に勝てますか?これらの答えはもちろん「NO」です.つまり,一部の分野,事柄に関しては,すでに雲泥の差で人類は負けているのです.『シンギュラリティ』の話でも「人間の頭脳」を超えると言われているのは,「人間の脳の処理能力」を超えるということかと思います.知性や知能,常識や倫理観,道徳心を超えるかどうかは別問題だと思います.
人工知能を生かすも殺すも,人工知能に支配されるもされないも,人間の使い方,作り方次第だと思います.人間は非常に心の弱い生き物です.是非,魂を悪魔に売ることなく良心を持って進んで行ってほしいと思います.
次回は,悪魔に魂を売ってしまった結果である戦争と技術をテーマに書いてみたいと思います.