第11回 『人工知能が得意なこと』
皆様こんにちは,同志社大学の土屋誠司です.人工知能の第11回目の今回は,人工知能が得意なことについて書いてみたいと思います.
人工知能は何でも学習して,何でもできる万能のモノとして感じておられる方も居られるようですが,そのようなことは決してありません.人工知能にもちゃんと得手・不得手があります.では,何が得意かというと,ルールや規則が明確でしっかりと定義されているものに対しては,非常に大きく,有効な力を発揮します.例えば,将棋やチェスといったゲームです.ニュースにもなりましたのでご存知の方も多いかと思いますが,将棋やチェスの分野では,人間のプロにも勝る力を持った人工知能がもうすでに存在しています.昨年話題となった将棋の藤井翔太プロも人間だけでなくコンピュータを相手に腕を磨いているということですから,人工知能の力は凄まじいものなのでしょう.人工知能は人間の能力をもうすでに凌駕していると言っても過言ではありません.
このようなルールなどがしっかりとしている環境のことを『閉世界』と呼ぶことがあります.与えられたルール,規則のみで出来上がっている環境,つまり,与えられたルール,規則がすべてであり,その他のものは一切存在しない世界のことです.このような環境は自然界ではまずあり得ず,人間が意図的に作り出した環境ということになります.実験室で実験する際には,このような環境を巧みに作り出し,性能を評価することがしばしばあります.
ここで問題です.「もし,想定していなかったものが入ってきた場合,その環境,その世界ではどう対処するのか?」 答えは,その想定していなかったものは『偽』,つまり,偽物,誤り,あり得ないこととして処理されないことになります.単純に言えば無視されるということでしょうか.我々が生きている世界では,ルールから逸脱した事象が日常茶飯事として起こりますので,あり得ない対処法ですよね.
このような『閉世界』で活躍する人工知能のことを『弱いAI』や『特化型AI』と呼ぶことがあります.ある特定の環境下で,ある特定のことを実現する人工知能ということになります.自動運転の自動車もある意味この範疇の人工知能かと思います.例えば,高速道路であれば,料金所から合流し,白線の中を一方向に,制限速度を守って走り,目的の出口から出るという特定の行動が想定できます.交通ルールも人間が勝手に決めたものですから人工知能の得意分野になるのは当たり前といえば当たり前のことなのです.しかし,一般道となると少し話は異なります.すべての人が交通ルールを守ってくれれば良いのですが,信号無視や無理な運転,歩行者や自転車の急な動き,道路工事や駐車車両など通常のルールにはない様々な突発事項が起こり得ます.こうなると人工知能には途端に難しい問題になってしまいます.つまり『閉世界』ではなくなってしまうのです.海外で自動運転の自動車が人を轢いてしまったり,車線変更してきた車とぶつかってしまったりなどといった事故報告もあります.現時点では決して万能な機能ではありませんが,人間が関わっている以上,仕方がない気がします.ルールを作っているのも,それを違反するのも人間なのですから...
ということで,次回は,人工知能が苦手なことについて書いてみたいと思います.