会話と認知症: 今日は誰と話しましたか?

医療創生大学 スーディ K. 和代

認知症の早期症状の一つは認知力の衰えです. 日常生活の中で会話を全くしない,あるいは極めて少ない場合,認知力が低下することは分かっています. 会話が少なく,他の人 との関りが少ないために認知症になったのか,あるいは認知症になる人はそもそも会話が 極少の人なのか,という点はまだ明らかではありません. しかし,会話が必要となる社会 的活動や他とのつながりが認知力に関連していることは明らかになっています.

今日,あなたは何人と会話を交わしたでしょうか? 日本の一人暮らしの 60 歳以上の男 性では 2‐3 日に一回の会話しかしていない人は 41%,女性では 32%という統計がありま す. つまり,3割から5割の一人暮らしの60歳以上の人が2日間は全く会話をしていないということになります. 1 週間の間、誰とも話していない人もいます. 一般的に,男性の 方が女性より会話が少ないことが示されています. また、欧米に比較して、日本のシニア は別居している息子・娘家族ともあまり会話をしていないのです. 日本では,週 1 回は話 すという人は 50%以下ですが、米国では 80%,フランスでも 60%以上というデータがあり ます. 米国は子供家族と同居するシニアは稀ですが,会話は日本より頻繁に交わされてい ることが分かります.

社会的活動や他との関りには会話が必要です. 会話を交わすことには、認知力維持も含 めて多くの良いことがあります.

  1. 社会的つながりがある人は,そうでない人よりも約 26%記憶力低下のリスクが軽減
  2. 社会的つながりのある人は,将来に対してポジティブな見方をし,且,社会的活動に 参加することで睡眠の質も上がり、良い心身の状態を維持
  3. 他とのつながりやサポートがなく孤立をしている人は,精神的に落ち込みやすく,また,外部からの異変に対する気づきが遅延:深刻な認知力低下状態に陥ってしま ってからから外部が気付く.

会話をしないと精神的に孤立するだけでなく,会話をするのに必要な筋肉も衰えます. 加えて,言葉を使わないと語彙数も減ります. そうなると,さらに会話が億劫になり孤立 するという悪循環が始まります. すぐ傍に話し相手がいない場合は、積極的に会話をする 工夫をしましょう.

例えば、買い物に出た時には店員さんと挨拶代わりに話しましょう. 手紙を届けに来る郵便屋さんに声をかけましょう. 「良いお天気ね. ありがとう. また, 明日」だけでも黙っているより良いのです. 好きな本を大きな声で音読して,次のだれか との会話に備えましょう. 自分に合ったボランティアをする方法もあります.

私の知り 合いの 70 代後半の女性は独身で独り暮らしです. 凛とした佇まいのこのひとは【大勢の中 でわいわいするのは苦手】だといいます. 【でも、孤立は嫌な】彼女は地域の大学で看護 学生の技術練習の相手のボランティアをしています. 地域の広報誌で募集案内を見つけた のだそうです. 杖をつきながら月 1 回程度,大学へ出向いています. 時々,町中で練習の 相手をしてあげた学生が声をかけてくれて嬉しいと語っておられます. 自宅では学生相手 に備えて大きな声で患者さん役のセリフ練習をしているそうです.

認知力低下を防ぐために会話をしましょう. 一言でも二言でも多く. 他の人にかかわ る努力をしましょう. そして,機会を逃さずに社会的な活動に参加しましょう.

ではまた,次回に.