第26回 『推論』

皆様こんにちは,同志社大学の土屋誠司です.人工知能の第26回目の今回は,推論について書いてみたいと思います.

『推論』は,第一次人工知能ブームの時に開発された技術です.推論とは,知っている知識から新しい知識を連想する技術になります.例えば,第24回のエキスパートシステムのところで説明したように,ある知識がIf-Thenルールとして,「鳩は鳥」という知識と「鳥は飛ぶ」という知識が登録されていたとします.何もしなければ,知っていることはこの2つだけです.しかし,2つの知識に共通する「鳥」の部分で知識を繋ぎ,「鳥」の部分を省略すると「鳩は飛ぶ」という知識を新しく作り出すことができます.このように,知識と知識の間にある同じ部分をつなぎ合わせて新しい知識を作り出すことを『演繹推論』と呼びます.

他の方法として,例えば,「鳩は鳥で飛ぶ」という知識と「カラスも鳥で飛ぶ」という2つの知識があったとします.この時,2つの知識に共通する「鳥で飛ぶ」という両知識の後半部分を抽出します.意味としては「鳥は飛ぶ」ということが分かります.つまり「鳥は飛ぶ」という新しい知識を手に入れることができます.このように,共通している部分(一般論)を取り出して新しい知識を作り出すことを『帰納推論』と呼びます.

これらのような『演繹推論』,『帰納推論』というやり方は非常に重要で,人工知能だけでなく,我々人間が考える方法としても頻繁に利用しています.しかし,演繹推論や帰納推論は良いことだけではなく,使い方に気を付けないと間違った知識を作り出してしまうこともあります.例えば,演繹推論では,「鳩は鳥」と「鳥は飛ぶ」から「鳩は飛ぶ」を作り出しましたが,さらに「飛ぶと浮く」,「浮くと沈まない」,「沈まないのは船」などの知識があった場合,これらのすべてをつないで共通部分を省いていくと,「鳩は船」になってしまいます.一つひとつの知識は正しくても,闇雲にどんどんどんどんつないでいくと,とんでもない間違った知識を作り出してしまうことがあります.

また帰納推論では,「鳩は鳥で飛ぶ」と「カラスも鳥で飛ぶ」の同じ部分を取り出して「鳥は飛ぶ」という知識を手に入れましたが,よく考えてみるとこの知識は正しくありません.例えば,ペンギンも鳥ですし,ダチョウも鳥ですが,ペンギンもダチョウも飛びません.この方法は,物事の共通していること,一般的な物事,大きくとらえると多くのものに共通する物事が分かるやり方です.そのため,必ずしも100%正しい知識が手に入るとは限らず,ちょっとした例外が出てくることがあります.

これまでの推論では,知識を繋げたり,知識の共通部分を見つけたりするときに,言葉の表現が完全に一致したもの同士に限って処理しています.これは,コンピュータですので,記号が一致していることしか処理できませんので仕方がありません.しかし人間は,記号の一致ではなく,意味合いや関連性,類似性などを見ながら本質を見つけ出します.この処理方法をコンピュータでもできたとしたら人工知能がノーベル賞を獲るのも夢ではないかと思います.私の研究室でもこのような研究を続けていますが,道は厳しいですね.めげずに頑張っていきたいと思います.

次回は,同じく,第一次人工知能ブームのころの技術である探索について書いてみたいと思います.