第7回 『人工知能の歴史 ‐第三次人工知能ブーム‐』
皆様こんにちは,同志社大学の土屋誠司です.第7回目の今回は,近年注目されている第三次人工知能ブームについて書いてみたいと思います.
バブルの崩壊とともに,第二次人工知能ブームは1990年代後半に終焉してしまいました.しかし,その後すぐの2000年代には,すでに第三次人工知能ブームを予感させる動きがありました.それは,『ビックデータの解析』といわれるものです.大量のデータをコンピュータに蓄積し,その大量のデータを『統計処理』することで,そこから何かしらの知識やルール,規則,法則などを見つけ出すことができるのではないかという技術です.『統計処理』とは,つまり数学で物事を扱うということであり,第二次人工知能ブームで問題となった熟練の経験が必要な『匠の技』が必要なくなるという点で非常に効率の良い方法です.
海外で実際に活用された事例として,「オムツ売り場にビールを置くと売り上げが上がる」というものが有名です.これは,ショッピングをする人の購買履歴をたくさん集めて,統計解析することで「オムツとビールが一緒に購入されるケースが多い」ということがわかったことから,オムツ売り場にビールを置いたところ,なんと実際に売り上げが上がるということが起こりました.人間が普通に考えただけでは,決してオムツ売り場にビールを置くことはあり得ませんので,さすが常識や固定観念がないコンピュータがはじき出した結果だと思います.この結果は,どうも仕事帰りにオムツを買ってくるように言われた旦那さんが買い物をするときに,ついでに夜に飲むビールも買っちゃおうといった行動から来ていたもののようです.ちなみに,最近ポイントカードなどを買い物の際に提示することが良くありますが,これは,自分の購買履歴を提供する代わりにポイントを貰っていたりするのです.
このような大量のデータから何かを抽出しようという考え方は,実は古くからあるのですが,ちょうどこの時期に大量のデータを保存できる記憶装置であるメモリやハードディスクが安価に調達できるようになり,また,その大量のデータを処理できる強力な頭脳であるCPUがこれまた安価になったことが大きいと思われます.ソフトウェアの技術とハードウェアの技術の進歩がうまくマッチした賜物かと思います.
その後,2010年代には,ついに最近ブームの『ディープラーニング』をはじめとした人工知能が登場します.実は,この『ディープラーニング』という技術も1980年代の『ニューラルネットワーク』という技術を改良したものになります.人間の脳の仕組みをコンピュータでシミュレートしたもので,昔はそんなに多くのデータを扱えなかったところを,最近のハードウェアの進歩により実現できた技術です.
昔の技術は陳腐で,今の技術が素晴らしいというような雰囲気がありますが,実はそうとも言えず,『輪廻』のように昔の技術を現代に合わせてリバイバルしたものは非常に数多くあります.ファッションも同じですよね.昔の人が考えた,すばらしい功績はやはりすごいことなのです.
人工知能の歴史を辿ったついでに,次回は,人工知能につながる社会的な大きな変革について書いてみたいと思います.