第21回 『人工知能で取り組むべき課題』 

 皆様こんにちは,同志社大学の土屋誠司です.人工知能の第21回目の今回は,人工知能で取り組むべき課題について書いてみたいと思います.

手前みそではありますが,私は2018年に同志社大学で人工知能工学研究センターを立ち上げ,センター長をさせていただいております.この研究センターでは,いろいろな人工知能関連の研究を専門にされている先生方に参加していただき,様々な視点から人工知能に関する研究を行っています.その中で,私が注目しているのは『常識を持った人工知能の実用化』です.

『常識』には大きく分けて2種類あります.一つが英語で『common knowledge』と表現される『誰もが知っていること』であり,もう一つが『common sense』と表現される『良識,健全な思慮・分別』です.『誰もが知っていること』は辞書に明記されていることがあったり,多くの人がそう感じることであったりしますので,統計的に処理することも可能です.しかし,『良識,健全な思慮・分別』は非常に厄介です.『倫理』や『モラル』,『マナー』や『道徳』,『文化』に関係するもので,正しい答えがあるようなないような,人によって判断の分かれるものであったりします.しかし,「これはダメだ」,「これはあり得ない」という指針のようなものがあったりします.

例えば,我々が何気なく使っている表現に「甲子園球場20個分の広さ」や「この欄は半角英数字で入力してください」などがあります.何の違和感もないかと思いますが,外国の方々から見ると理解しがたい表現です.「甲子園球場」はその球場がどれぐらいの広さかを知っていないとその広さの凄さが分かりません.ちなみにこの広さは私が居ります同志社大学の京田辺キャンパスの広さです.非常に広いですよね.それから「半角英数字」というのは,「全角」との対比であり,日本語や中国語などの全角文字を使用しない欧米などの方々には理解不能です.そもそも文字としては半角文字しか存在しないのですから.

また他の例では,「休みの日ぐらい家事を手伝って!」「休みなくトラックを運転しているんだから,たまの休みぐらいゆっくり休ませてよ!」などといった夫婦の会話があった時,さて,どちらが夫で,どちらが妻でしょうか?「それは当たり前で,家事をしているのが妻で,トラックの運転手が夫だろう」というのは,もう古い常識でしょう.男女平等の世の中ですから.

このように,時と場合,性別,年齢層,地域,立場,時代などにより『良識,思慮,分別』は変わってしまうのです.これを機械的に学習しようとすると,データが足りないという現象が起こります.ただでさえ日本人の人口は多くないのに,性別や年齢層,地域などでデータを分類すると益々データ数は減っていきます.しかし,このような状況でも学習しないといけないのです.少ないデータからも精度よく学習できる仕組みを作りながら,『常識を持った人工知能』を実現できるようチャレンジしていきたいと思います.

次回は,人工知能との付き合い方について書いてみたいと思います.