第12回 『言葉のあいまいさ』

皆様こんにちは.自然言語処理の第12回目の今回は,言葉のあいまいさについて書いてみたいと思います.

前回のブログでも書かせていただきましたが,我々は日々何気なくコミュニケーションを取っていますが,実は,言葉を使って相手に意味や意図,感情などを伝えるということは非常に難しい行為です.この難しさを産んでいる一つの原因は,言葉のあいまいさにあります.私は常々「言葉は生き物のようなものだ」と感じています.新しい言葉が日々どんどん生まれてくる一方で,死語として使われなくなってしまう言葉もまたたくさんあります.その過程で,一つの言葉の意味の幅が広がったり,まったく異なる意味になったりすることもあります.また,同じ発音の言葉でも異なる意味を持っている,いわゆる『同音異義語』もありますので,益々難しくなってきます.

例えば,「はし」.漢字で書けば,「橋」や「端」,「箸」と書き分けることで,意味の違いを表現することができます.しかし,発音は同じ「はし」ですので,単に「はし」という単語を聞いただけでは何のことを言っているのか判別することはできません.前後の関係や背景にある知識,話をしている相手との人間関係など,言葉以外の知識を使わなければ理解することはできません.

また,「太郎は山口と福岡に行った」という文の場合,何の詮索もなく,普通に解釈すると「太郎君は山口県と福岡県に旅行に行った」のように解釈することができるかと思います.しかし,もしかすると「太郎君は山口君と一緒に福岡県に旅行に行った」のかもしれません.英語で書くと「Taro went to Yamaguchi and Fukuoka」なのか「Taro went to Fukuoka with Yamaguchi」なのかですが,正しく解釈することができないとコンピュータで自動翻訳する際にも誤った答えを出してしまうことになり非常に問題です.「太郎は花子と福岡に行った」という文であれば,上記のような誤解もないかと思います.これは「花子」という言葉が明らかに地名ではなく人名だと分かるからです.しかし,このような多義性のない言葉の方が実は少ないと思います.

言葉を発する自分は,話したい内容のイメージが頭の中にあり,それを言葉にして表現していますので,何の違和感もありませんし,まさか,異なる意味に捉えられてしまうとは微塵も思っていないと思います.しかし,受け取る側の人が言葉を発する人と同じイメージを頭に抱くとは限りませんので,細心の注意を払いながら表現しなければならないのです.上記の例ですと,面倒でも「太郎は山口と一緒に福岡に行った」と書きさえすれば誤解はありませんし,同じ単語のみを使うのであれば「太郎は福岡に山口と行った」語順を変えるだけでも誤解を回避することができます.

何気に言葉で表現しがちではありますが,ちょっと聞き手の立場に立って,聞き手の気持ちを察して,理解しやすい表現をとれるようになりたいものです.次回は,これまた理解が難しい表現である略語,若者言葉,方言について書いてみたいと思います.