第11回 『意味を伝えることの難しさ』 

皆様こんにちは,同志社大学の土屋誠司です.自然言語処理の第11回目の今回は,意味を伝えることの難しさについて書いてみたいと思います.

単語や文,文章として表現されたものの意味を解釈することは,非常に難しいということをこれまでのブログでも書いてきましたが,どれ程難しいものかと思い研究したことがありますので,ご紹介したいと思います.

コミュニケーション相手に伝えるべきものとして,意味や意図などがありますが,この研究では,「感情」に着目し,「提示メディアによる感情伝達傾向の差異に関する分析」(土屋誠司,鈴木基之,渡部広一,電子情報通信学会論文誌 A,Vol.J98-A,No.1,pp.103-112,2015)という論文にまとめて発表しました.

我々人間はコミュニケーションをとる場合,例えば,顔の表情やジェスチャー,声色など様々な情報を駆使して自分が考えていることを相手に正しく伝わるように工夫することが一般的です.また逆に,相手が示す様々な情報から様々な推測を行って,相手の言いたいことや感情などを理解しようとします.このようなコミュニケーションも技術の進歩に伴い,状況が変化しています.例えば,電話が開発されたことにより,音声情報のみを利用したコミュニケーションが広く使用され,近年ではインターネットの普及により,メールやチャットのように言語情報のみを利用したコミュニケーションが行われています.このブログも正に,言語情報のみを利用したツールです.しかし,十分な情報が利用できる環境であったとしても,相手を十分に理解することは難しく,ましてや利用できる情報が限定されるという無理のある状況では,誤解を生じることが多くあります.結果として,コミュニケーション相手とトラブルに発展してしまい,これが大きな問題として社会的にも問題視されています.皆様もこのようなトラブルの経験はあるのではないでしょうか.

そこで,この論文では,人に感情を伝えることに焦点を当て,映画中の発話内容を映像,音声,言語の情報で提示し,発話者の感情を推定する被験者実験を行いました.結果,すべての情報から感情を推定した場合は58.2%の正解率であったのに比べ,音声情報の場合は15.0%低下し43.2%,言語情報の場合は更に5.6%低下し,37.6%になることが分かりました.感情の推定には,受け手側の性格や経験,記憶などが深く関与するため,一般に同じ状況で同じ情報を与えられたとしても,同じ感情を推定するとは限りません.今回の実験からは,そもそも人間同士において,対面でコミュニケーションを行ったとしても6割程度しか感情を正しく伝えられない可能性があるということが分かりました.

また,過去の他の研究者の方々の結果と比較し,ある程度同じような結果になることを確認するとともに,喜びの感情を伝えるにはすべての情報が必要であること,音声情報があると逆に喜びの感情が伝えにくくなることがあるという新しい発見もありました.これらの結果を踏まえて,今後,新しいツールの開発や人同士のコミュニケーションにおける誤解などの問題解決に役立てばと考えています.

次回は,コミュニケーションにおける誤解の原因の一つでもある言葉のあいまいさについて書いてみたいと思います.

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