第12回 『人工知能が苦手なこと』

皆様こんにちは,同志社大学の土屋誠司です.前回は,人工知能が得意なことについて書きましたので,人工知能の第12回目の今回は逆に,人工知能が苦手なことについて書いてみたいと思います.

今流行っている人工知能は,あくまで大量なデータと統計学に基づいたものですので,やはり苦手とするものもあります.例えば,我々のように言語を操って自由に会話をし,コミュニケーションをとったり,相手の言動や顔色,立場やシチュエーションなどから総合的に判断をして,その人の感情を読み取ったりすることは非常に難しいことです.

では,なぜ難しいのか?それは,ルールや規則が存在しない,または,ルールや規則がたとえ存在していても,そのルールや規則が非常に曖昧であるということが原因の一つです.人工知能もプログラムで出来ておりますので,そもそもルールがなければ一切動くことはできません.また,そのルールが曖昧であれば,つまり,そのルールが複数の解釈ができるものである場合,どの解釈に基づいて行動すべきかがわからなくなり,結果として動けなくなってしまいます.

このような環境のことを前回の『閉世界』と対比して『開世界』と呼ぶことがあります.我々が日々直面している現実の世界そのもののことです.日本語を例にすると,「家の中で飛んでいる鳥を見た」という日本語を理解するとき,「鳥が家の中を飛び回っている光景を見た」とも考えられますし,「外で飛んでいる鳥を家の中から見た」とも解釈することができます.同じ文字の並びで一言一句違いのないものでも,読む人の解釈次第で異なることを表現してしまうことがあります.このように非常に複雑で難しい問題を我々は,話の流れなどから瞬時に,いとも簡単に判断しながら会話をしているのです.人間の能力の凄さを垣間見ることができる一つの事象かと思います.

我々は,自然の法則という規則と人間が自ら生み出したルールとに縛られることで一定の秩序をもって生活しています.しかし,すべての人や物事がすべてのルールに従って行動する,起こるとは限りません.必ず違反するものが出てきます.そのような突発的な出来事にも我々は日々臨機応変に対応しながら生きています.そうでなければ,決して生きていくことはできません.だからと言って,人間の作るルールが不要であるということではありません.また,すべてをルールにできるわけでもありません.そこが人間の弱さであり,また強さなのだと思います.「想定外でした」が許されない風潮が強くなっていますが,これは,我々の世界をいわば「『閉世界』にせよ」と言っているように聞こえなくもないのですが...

このような『開世界』で活躍できる人工知能のことを『強いAI』や『汎用型AI』と呼ぶことがあります.例えば,ドラえもんや鉄腕アトムがその代表でしょうか.このような人工知能ができるにはまだまだ時間がかかりそうです.そう思うと,人工知能に人間はまだまだ負けていない,負けるはずがないのかもしれません.

しかし本当でしょうか? ということで,次回は,人工知能は人間を超えるのかをテーマに書いてみたいと思います.