第9回 『温故知新』

皆様こんにちは,同志社大学の土屋誠司です.第9回目の今回は,温故知新をキーワードに書いてみたいと思います.

「故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る」.すでにある技術も現代風に解釈するとまったく新しい技術になることが結構あります.例えば,『クラウド』.データを個々のコンピュータに保存するのではなく,ネットワークに接続されている別の場所にあるサーバというコンピュータにデータを保存する仕組みです.これにより,どこのコンピュータからも同じデータを自由に使用できるようになります.これは昔,『クライアントサーバシステム』と言われていた仕組みとほぼ同じです.違いは,昔はサーバというコンピュータが基本的には1台であったのに対して,今はサーバが複数台で構成されているところです.こうすることで,あるコンピュータが故障しても,他のコンピュータでカバーでき,故障などによる障害が起こる確率が減り,また,高速にやり取りをすることができるようになりました.

他には,『IoT』.エアコンやテレビ,インターフォンなど,いろんなモノをインターネットにつないで,いつでもどこからでも操作できるようにする仕組みです.これは昔,『ユビキタスコンピューティング』と言われていました.ちょうどインターネットが普及したころブームになりましたが,結構お金がかかるということで,研究レベルで終わってしまいました.しかし,5Gといわれる次のåç世代の通信技術により,多くのコンピュータを高速に,安価に接続できるような環境が来ると,一気に普及するのではないかといわれています.

そして,今流行の『ディープラーニング』という人工知能の技術.これも約30年前の「ニューラルネットワーク」という技術を改良したものです.私が学生のころに教科書で学んだ技術でしたので,『ディープラーニング』の技術を知った時,「あれっ,まだできてなかったの?」とびっくりしたことを覚えています.この技術は,人間の脳の中の仕組みをシミュレートしたもので,脳細胞一つひとつはごく単純な処理しかできないのですが,非常にたくさんの細胞が集まると,脳として複雑な処理ができるという考え方を基にしています.当初の『ニューラルネットワーク』では,ハードウェアの進歩が追いついておらず,そんなに多くのデータを処理することができなかったのですが,現在では,非常に多くのデータを安価に処理することができるようになり,爆発的に使用されるようになりました.

このように,ファッションと同じく,技術もリバイバルされて登場します.しかし,円を描くようにまったく同じ仕組み,技術がぐるぐると使いまわされているだけではなく,「バネ」のようなイメージで,円は描いているけれど少し上にズレた位置,数学で言うと「ねじれの位置」に帰ってきます.この少しの進歩が大きな革命だったりします.そして,少し上の位置に帰ってきた時には,例外なく名称が変更されます.名前が違うのでまったく新しい凄い技術だと思いきや...あまり名前やブームに踊らされることなく,物事の本質を見極めて,自分に必要なものをしっかり選んで使っていただけた方が良いかと思います.案外,名前だけが立派で,不要なものに高額な請求をされていることもありますので...

ずいぶん人工知能の話とは離れてしまった回が続いた感がありますので,次回は,コンピュータは感情を持てるのかについて書いてみたいと思います.